太陽と月と地球と

ここ二三ヶ月で凄い本を三冊読んだ。まず第一は、ガモフの『太陽と月と地球と』で、この本は、もともと『地球の伝記』『月』『太陽の誕生と死』の三冊になっていたものを、今回新しく一冊にまとめたものである。

ガモフは、相対性理論をやさしく説いた『不思議の国のトムキンス』が一番有名だが、専門の分野ではビッグバンを初めて唱えた世界最高の学者と言われながら、もう一方では、難しいことを易しく説くことでは右に出るものがいないと言われる名書き手の一人でもある。

もともとこの本が取り上げている天文学・惑星科学・地球物理学は私の大好きな分野なので、この本には冒頭から引き込まれた。

一番凄いなと思ったのは、太陽の表面の写真だった。表面に黒点があることは誰でも知っている。またコロナとかプロミネンス(紅炎)の写真もよく見かける。しかし、まさか太陽の表面を拡大すると、ちょうどグタグタに煮えたぎっている米の飯のように、粒状になっているとは知らなかった。この一個一個が直径数百キロというから、日本列島と比べてみるとさすがの大きさだ。

「月」のところでは、やはり潮汐運動の説明だろうか? 月と一部太陽によって起こされる地球の潮汐運動は、案外説明は簡単ではない。海水が単に月に引っ張られて、地球全体の形が卵のように片方にだけ引っ張られるのならば説明は簡単だ。ところが海水は、月のほうと、もう一つ反対のほうにも膨れる。それはなぜか?

もう一つ、海水が潮汐運動をするだけでなく、大地もまた潮汐運動をしている。その両方が重なったり割り引かれたりしているのが現実の地球の潮汐運動なのだという。

第三部「地球」に入って、それなりに面白いところはあったが、今ひとつ迫力がない。それはガモフがおよそ1960年ぐらいまでに活躍した学者であったために、スプートニク以来急激に発達した宇宙科学・地球科学が入っていないからだ。

まず大陸移動説がない。マントルからのプルーム運動がない。プレート・テクトニクスがない。最近の地球科学はまさにこれらによって一新されているために、その直前のガモフの地球物語はイマイチなのだ。

というわけで、この部分の不備を補うために、NHKブックス、1986と少し古いが、竹内均・上田誠也の『地球の科学--大陸は移動する』を買ってきて、今補いつつ読んでいる。

アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書

この本については、約一年前に出たときから本屋で平積みを見かけて、よく知っていた。しかし、日本の歴史ならともかく、特にアメリカの歴史を勉強するというのも・・と思って、買わずにいた。

ところが、ガモフを読んだあと、なぜか強烈にこの本のことを思い出し、どうしても読みたくなって、所在はよく分かっている、JR大井町駅北口のブック1の売り場に飛んでいった。ない! 前にずっと置かれていたのに・・・。しかしどうしても買うんだと強い決心なので、勇を鼓して店員に「ないんです!」というと、探しに行ってくれた。英語のコーナーに置いてあるのだった。ちょっと違うんだよね~。英語の勉強に買うんじゃない。人間の勉強のために買うのだ。

で、読んでみたら、これほどすばらしい本もない!

アメリカの小学生のために書かれた基本常識の学年別の教科書の中から、歴史の部分だけを(3年生と6年生を中心に)取り出して再編集したと言うのだが、それゆえに難しくなく、小6の部分になると、こんなに難しくてもいいのかと言うぐらいにちゃんと書かれている。今まで、大してよく知らずに過ごしてきたことが、わかりやすく筋道を立てて書かれており、なるほどなるほどと楽しく読み進んでいく。

一箇所、広島・長崎の原爆投下の箇所だけは、日本人として納得しかねたが、そこを除いては(なるほど、そうかそうだったのか)と非常に勉強になった。

全体として、「人道物語」として書かれていて、人間は、国民はいかになければならないかが、しっかり身に付くように書かれているように感じた。

地図を作った人びと

そして、第三に、いま興奮して読んでいるのが”The Mapmakers”『地図を作った人びと』だ。ガモフ、アメリカの歴史教科書と分厚い本をあらかた読み上げて、そろそろ次に読む本がないな、どうしよう? と思い始めたときに浮かんできた本だ。

この本も、もう何ヶ月も前に、浜松町の「談」で見つけた本で、欲しくはあるが、値段も結構張るし(3900+税)、どうしようかなぁと決断しなかった本だ。しかし何ヶ月も一年も気になって忘れないというのは、やはり絶対読む価値があるということだろう。

私は本来、天文・地学・地理学が好きなたちだし、地図を作ってきた人たちの歴史となれば、やはり読まない手はないと思われた。11/24、この日は、この本と、先のNHKの『地球の科学』の二冊をパッと決めて、パッと買って、他は回らずに帰ってきた。早く我が家に帰って開くのが楽しみだ。(^_^)

ところで、最近はこの僕も、わりかしアマゾンが使えるようになったので、今回もアマゾンでまず探すわけだが、今回ばかりは、何度やっても出てこない。「地図を創った人たち」「地図の歴史」などとやってみるのだが、すべて「そんな本はない」という返事である。
で、談に行くと、やはりあったではないか。
で、帰ってからあらためて忠実にその書名を入れてみると、ちゃんとヒットする。しかも、新版・旧版と二つも出てくる。何だろう、この検索は? 「地図を作った人たち」と「地図を作った人びと」と二文字違いで出ないというのは、あまりにもコンピューター的。

最近の「グーグル」はよく出来ているので、検索もぐんと楽になっている。なのにアマゾンの中は、まだまだ駄目ではないか。先日も、徳田康起、徳山康起とやってどうしても出ない。後で知っている人に聞いてみると「徳永康起」であった。「あなたが探しているのは、これではないか?」となぜ言えないのか?

ところで、この本の原題が『The Mapmakers』というのがとても良い。日本語で600ページ。かなり読みでがある。精力的に書かれている。地図つくりの歴史について、作り手の立場から、根掘り葉掘り書かれている。だから何でも出てくる。

クロノメーターの出現でどう変わったか?
クック船長の活躍の成果は?
アメリカ西部開拓史の進展は?
国境や州境の計測は?
メートル法やレーザーの導入は?

と、知らないことや知っていることが続々と出てくるのは本当に楽しい。これまたナルホドナルホドの世界だ。

単なる知識の羅列でなく、誰がいつどこで何をどのように苦労したから今があるのかが書かれている。これまた、人間の歴史なのだ。やはり大きな本には、大きいだけのことがあるなぁと、つくづく手ごたえを感じるこの三冊である。

(KK西研究所・所長 西 順一郎)