ある日羽田で

ここ二年ほど前から、秋田のS君から、ネットのアクセス増について、なにか不思議なことを聞くのだが、ちっともぴんと来ない。人によっては、メルマガをやれというのだが、これをやる気はさらさら起こらない。年四回の「西研新聞」発行だけでけっこう手一杯だ。

一方で、わが社のHPへのアクセスが増えないで、HPそのものがマンネリなら、アクセス数のほうもマンネリである。

いい知恵もないままに、さる六月だったか、出張の折に、羽田の書店に寄ってみると、上記佐々木氏の『グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する』(文春新書)が目を引いた。この佐々木氏の本は、すらすらと読めた。やはり元毎日新聞記者というのが、プラスに働いているのかもしれない。

梅田氏の『ウェブ進化論』が、真っ向から大太刀を振りかぶっているのに対し、佐々木氏の本は、わずか二つの事例しか素材にしていない。ひとつは、羽田の民営駐車場運営の夫婦の話。もう一つは、福井の中小零細メッキ工場に戻ってきた経営二世の成功物語。これら二例で、Web2.0なりロングテールなりを分からせてしまう。

私は、この小冊子を読むことによって、突然、二年前から聞かされていた秋田のS君の話が、霧が晴れたように分かるようになった。なんだ、こういうことだったのか、彼らがやっていたことは!

グーグルという会社

勢いに乗って次に買ったのが『グーグル誕生』。これはすごい。たぶん、2006の「ブック・オブ・ジ・イヤー」になるのではないか。

(1)これは経営学の本である。企業はいかになければならないか、がよく分かる。

(2)まず経営理念がしっかりしていなければならない。グーグルを創立した二人の大学院生が実に立派である。その理念の第一条が「Don’t Be Evil.」(邪悪になるな!)とは実にSP的である。日本ならば、さしづめ「清廉潔白」とでもいうのだろうか。どこかの企業に聞かせたいような企業理念である。

(3)次に「青チップ主義」(研究開発重視型)ということである。これは今でこそ珍しくないが、昭和40年代までは、ごくごく珍しい存在であった。ソニーはモルモットだと言われたし、ホンダは「アプレゲール経営」といわれて、ともに異端あつかいされた。

昭和40年代最後と昭和50年に、ニクソンショック、ドルショックが来て、さしもの日本の順調な高度成長も頓挫し、迷走数年、その後ようやくどこも研究開発で競争しないとどうにもならないことに気がついた

青チップ優先主義こそ経営

ここ数年、ソニーに代わってキャノンが研究開発主導型で目覚しく成功している。私は、グーグルについては何も知らなかったが、この本を読んでみて、「なるほど、かつてのソニーと同じだ。技術最優先主義だ」と分かった。

この「青チップ優先主義」は、私が、ソニー・ホンダ・ドラッカーの経営思想をゲーム化したMGの基本路線そのものであり、ゲームの作者として、よかったなと胸を撫で下ろすところである。

④びっくりするのは、同社の企業風土が破天荒なことである。まず、アメリカの大学・大学院の自由さを100%企業に持ち込んでいる。おまけに、毎年ネバダ州の山奥の砂漠で行われる、まるで無政府主義のようなヤングの創造フェスティバルへの全社員参加を督励している。

⑤「20%主義」。社員は、労働時間の20%を本来の業務以外の、自分の必要・重要・興味のあるテーマに当てて、自主研究しなければならない。

その研究、普通の企業では地下に隠れてこっそりやる研究が、この企業ではトップによって推奨され、義務付けられ、激励され、評価される。良いものはどんどん製品化されるのである。なにかホンダのアイコン(アイデア・コンテスト)を思わせる。

要は、グーグルはトップから下にいたるまで「知的ワーカー」の塊の企業である。「多きは人なり。少なきもまた人なり」という言葉があるが、グーグルはきわめて人材に貪欲な会社であり、入社後もそれら人材に絶えざる知的生産の継続を迫る。

グーグルの検索品質は世界最高であり、今後も際限なく知的ソフトを出し続けることだろう。こういう自由でアカデミックな知的生産尊重型の企業が日本に出てくることは非常に難しい。なにしろ個人の発想より組織中心型の社会だから。

(KK西研究所・所長 西 順一郎)