Sくんの年賀状

 北海道から帰って年賀状の束を開いてみると、いつものS君からの年賀状が入っている。  
昭和31年、都立西高に復学してみると、すぐ近くの机に、この指田君がいた。

私は、高校は佐世保北だったが、二年のときに転校を思い立ち、最初新宿か戸山あたりと考えたが、「学区制があるから、杉並だと都立西高しかだめ」と言われ、(では西高に)と軽く考えて、二年生の終わりに転入試験を受け、運よく入ることができた。(転入即病気で一年休学。)

佐世保北と都立西高の違いは、北高だと、何か疑問があるときに、相談する相手はクラスにまず一人ぐらいしかいないが、西高だと前後左右誰に聞いてもそれらしい答えが返ってくる。それぐらい一騎当千の粒ぞろいなのだ。

当時の指田君は人格者でおとなしくて、決して出しゃばることがなく、気の合う友達だったが、しょっちゅう風邪を引いていたような印象が残っている。当時から植物が好きで、将来はその道に行きそうだった。

当時から今まで、50年間も年賀状だけの付き合いになったが、指田君の年賀状は、いつも植物の絵または彫刻で、素敵だった。

八王子・高尾山

彼の住所は今年の年賀状でもやはり八王子で、しかも趣味・興味が植物ともなれば、すぐ近くの高尾山にも、時々は出かけているだろう。

私は、山登りは高尾山と決めている。なぜなら、11時に東京駅から中央特快に乗って、簡単に1時間ぐらいでいけるところとなると、高尾山ぐらいしかないからである。

山麓で適当に食事をして、1315ぐらいから、標高200mから歩き始める。
450mぐらいの高さのところにある「リフト降り場」まで、途中あちこち写真を撮りながら、ひいひい言って登る。私の標準時間は75分。かなり遅い。きついが、腹を引き締めるにはちょうど良い運動量だ。気分も、眺望も良いし、、。

私の趣味は写真だから、春はサクラ、秋はもみじ、花や若葉も撮るが、植物の名前は残念ながらまず分からない。

薬草の散歩道

彼は、好きな一本道、東京薬科大で薬草について教えているらしいので、アマゾンで「指田豊」と入れてみると、思いのほかたくさんヒットする。その中で、僕の読めそうな本を探すと、『薬草の散歩道/薬になる野の花・庭の花100種』(NHK出版、2001年)というのがあった。「散歩道」というのが、良い感じだ。

で、マーケットプレイスの方から取り寄せてみると、一週間ぐらいで届く。予想通り素敵な本だ。240ページで、1200円。NHKの『趣味の園芸』に4年間連載したやつを一冊にまとめたということで、一話が見開き2ページになっており、字も大きくて読みやすい。(小柳氏の挿絵もなかなかのもの。)

彼があとがきに、「気楽に薬草にまつわる話、ときには脱線して薬草とまったく関係のない話まで書きました。ところが、これがかえってよかったようで、読者の評判がよいので、四年間の連載が終わったら単行本にしようということになりました。」と書いているように、<脱線>が素晴らしい。

脱線が最高

私も、MGの教え方で、できるだけフレンドリーに、相手が安心して、気楽に勉強に打ち込めるように、相手の顔を見、相手との距離感をなくして、親しくしゃべる努力をしている。いかに、こちらに相手が近づいてくれるか? また、堅苦しかったり、退屈だったりすると学習効果が落ちるので、ときどきジョークを入れたり、個人的な話に持っていったり、たえず具体例でしゃべったりしている。

指田君の場合も、講義は楽しそうだ。それが、各項目すべての中に、適当にちりばめられて出てくる。その技は、神技(?)というに近く、とても私には真似できない。まったくかたぐるしいところがない。本草学の薀蓄と、彼の日常生活や、教職生活、若き日の思い出などが、絶妙に織り込まれている。読者は、薬草学だけでなく、彼自身に興味を持つはずだ。(そういう意味では、地図学の今尾恵介氏に似たところも、、。)

とにかく高校時代のおとなしい彼の内面に、こんな素敵な人間性があったのかと目を開かれる思いの一冊だった。引き続き、もう一冊『八王子の薬草』を取り寄せて読むのが楽しみである。

(KK西研究所・所長 西 順一郎)