TOCセミナーに出席

 今日10/19は、朝10時から、某能率団体主催の「TOCシンポジウム」が虎ノ門パストラルで行われた。

企業側から、TOCという新しい管理手法を取り入れて一年ちょっとという会社が三社ほど事例発表をした。最後にこの三社に能率団体のコンサルタントが入って四人でパネルをやる、ということだったが、私は残念ながら、1646の新幹線で姫路まで行かなければならなかったので、三社の事例が終わったところで、キリがいいと言うことで、お先に失礼した。

TOCって、何?

  さて、「TOC」というのは、早いところで去年から始まったばかりの今一番新しい生産管理方面の企業革新手法である。
ちょうどことしの夏、お盆の日に、佐賀の鶴田公寛氏からファックスが入って、ともかく今本屋に大量に並んでいる『ザ・ゴール』という本を買いなさい、戦略会計STRACにすごく関係があるから、否応なく読め、と言ってきた。
しかも、読む本は三種類ある、これとこれとこれ、とそこまではっきり言われては、知らぬ顔も出来ない。
早速、その三冊の本を買ってきて読んでみると、なるほど、これは捨てておけない。私が昭和40年代に、ソニーで、ソニーを良くするために開発した戦略会計STRACと重なるところが大である。TOCは、イスラエルの物理学者、E.Goldratt氏が考えた現場の能率を上げる方法で、今までのさまざまなコストダウン中心型・部分最適型のIE手法とは、天と地ほどに異なる手法である。私は今まで、IEとか、QCとか、そういう能率団体、生産性団体がやっているような、あるいは、大学で言えばW大の管理工学でやっているような手法には、一貫して、やめろとまでは言わないが、やれとは絶対に言ってこなかった。

私のように、元ソニーで働いた人間は、「何しろ、人のやることはやるな、人のやらないことをやれ」で育ってきている。特に、大学の先生がやり始めたら、それはすでに十分古いわけだし、新規性はないので、やっても儲かるわけがない。
ごく最近で言うと、ISO9000、14000がその類だ。

最近は、どこの大企業も「ISO9000、14000取りました」と誇らしげに広告に載せているが、「だからどうなの?」「儲かってる?」と聞きたい。
皆がやることと同じことを「流行だから」やって、儲かった例はない。

私がQCぎらいなのは、それが形式的だからだ。(もともとの品質管理手法は、当然であり、議論以前である。)
また、推進する側も、官僚主義のまま、あるいは、X理論のままで推進するの では、良くなる訳がない。

TOCは例外

  さて、ところがところが、TOCは、例外なのだ。
なぜTOCは例外なのか、近々11/01に当のご本人のGR氏が東京で講演 会をやられるので、そこで聞いてみたいと思っている。 なにしろ、TOCは、特別なのである。
私のMGや戦略会計が、企業を上から見る、頂点に立つ発想法から来ているよ うに、TOCもよく似たところがあるのだ。

企業は上から見ないと駄目

私の考え方は、何しろ、人間は、企業を上から見ないと駄目だ、という発想法だ。企業を上から見るのは、企業の中にいて、下の方で、ただ単にこつこつ、ごそごそ働いているのとは根本的に異なっている。戦略的だし、第一楽しい。 私も、初めは、単なる「I型人間」であり、人事や教育しか知らない、幅の狭い職能人間、セクショナリストだった。ところが、私の場合は、三菱重工で社内報をやり、ソニーに移って二年間トップの秘書をやり、中小企業診断士を勉強し、そこで経理計数を学ぶことが必要だと悟り、それも単に「経理屋」になるための勉強ではなくて、ソニーが松下に負けずに楽して儲けるためにはと、ともかく『儲ける』(make money)が起動力になっていた。公認会計士の勉強や、ORの勉強、をする中で、世の中には、DCとFCがあること、DC(直接原価)とFC(全部原価)のなかでは、DCが科学的・数学的でシンプルであるにもかかわらず、世の中は非科学的なFC(全部原価)が唯一無二のように君臨していること。しかも、世の中の人たちは、まずほとんどが、それに無抵抗に盲従している。
DCを学び、その合理性を知り、それを使おうと大声で周囲に呼びかける人はまずいない。
さらにDCの上には、LP(線形計画法)があり、これこそが、利益最大化の科学と言えること。(にもかかわらず、LPは素人には難しい。)

MGのSTRAC-1は基礎

私は、ソニーCDIで、昭和51年4月から、MGの普及活動を始めたが、続いて6月から、STRACをMGに取り付けて、教え始めた。
もともと戦略会計は、私がソニーを良くするために、[利益拡大]に関係のある諸科学をいろいろ統合して結晶させ、引き揚げたものである。
これは、自分だけで開発したとは言え、強力な企業内秘密であったから、公表するからには、ちゃんとしたところで発表してからにしようと思った。
そこで、たまたま岐阜市で行われたその年の[全国能率連盟大会]で初めて社外に発表して、よしこれで良いだろうと、6月のMGから教え始めたわけだ。反応は極めて良好だった。 しかし、間違ってはいけないのは、MGで教えているSTRACは「STRAC-1」と言って、単品だけのSTRACである。現実には、一品種だけしか扱っていない商売なんて、まずないわけで、床屋でも何種類かの売上に分けることが出来るだろう。

STRAC-2で何が分かるか?

昭和48年だったか、石油ショックで、世の中が一斉に物不足に見舞われたことがあった。ソニーでも、プラスティック不足で、このままでは、ラジオやテレコが作れないのではないか、と心配された。 順風満帆のときは、経験主義者が大きな顔をしている。しかし、このように、突然材料がない、とかいう未曽有のことが起こると、経験主義者たちは、口をつぐんでしまう。こういうときこそ、「知的ワーカー」の出番だ。物がないにもかかわらず、利益を上げなければならないときは、これはLP(線形計画法)的状況なのだ。慌てず騒がず、できるだけ材料をつかわないで、できるだけMQ(粗利総額)を増やす方法を考えれば良い。当時、ソニーは、FC(全部原価)で動いていたが、全部原価と言うのは、「原価率」や「賃率」で原価が高いの低いの、という管理指標で、コストダウンか、値付けぐらいにしか、役に立たない。
一方、DC(直接原価)にすると、数量比例性が出てくるので、数量Qを掛けることにより、PQ売上だけでなく、VQ材料費、MQ粗利総額を出すことができる。そうなると、MQの大きい順にソートすることも出来る。つまり「貢献度順」が目で見える。さらに、管理資料に、P、V、Qのほか、H(時間)を加えると、HQ(必要製造時間、工数)のほか、M/H(時間当たり付加価値)を出すことが出来る。このM/Hの大きい順に作るというのが、実はLP(線形計画法)の教えるところなのである。

金儲けは、まず全体がどうなるかを、見やすい「四畳半」(STRAC図)で把握しなければならない。と同時に、MQソートした全機種表により、簡単に「ABC分析」をすることが出来る。
ABC分析は、売れているABを増やし、小口の多いC群を整理して行けというものだ。これによって、できるだけ少ない労力で、できるだけ多くのMQを狙うわけだ。一倉定は、「下から5%を切れ」と言っていた。船井は、A群の売り場を広げろ、と言っている訳だ。

MGが先、TOCが後

いずれにしろ、今日虎ノ門で聞いた三社のTOC発表は、口では「スループット、スループット」と言いながら、誰一人として、四畳半を表示した人はいなかった。Fも出なかったから、つまりGの話は、全く出なかったわけだ。
MGをやらずに、GR氏のザ・ゴールにならって、TOC(theory of constraints=制約条件の理論)管理をやっても、今までのコスト意識の海に両足を突っ込んだままで、口でだけ「TOC,TOC,ゴール、ゴール」と言っているわけで、これでは漫画にしかならない。
まず、MGで「全員の」意識改革。しかる後にTOCでも何でもやれば、成果がまったく違うと思うよ。

【付録】『ザ・ゴール』について

以下、ご参考までに、[佐賀の鶴田さんからのメール]です。

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2001.0815 佐賀・STLOWS経営研究所 鶴田 公寛

残暑お見舞い申し上げます。精霊流しも終わり、これから少しずつ涼しくなると思います。

ところで、最近本屋さんには、黄色い『ザ・ゴール』が山積みにされていますので、気になって読んでみました。
内容は、STRACおよびSTRAC2を軸にした工場改革の物語でした。
アメリカでは、1984年に発行され、十数か国で翻訳されているそうですが、日本語に翻訳することが許可されず、今年初めて日本版が出たのだそうです。
「スループット」というのがMQですが、STRAC1&2のほうがずっと数学的で、分かりやすく、改めて”四畳半”の素晴らしさを認識しました。

ところで、新大阪駅の構内の書店に、このザ・ゴールに関連した本が多数出ているのにびっくりしました。
ザ・ゴールが翻訳される何年も前から理論本が何冊も出されていたようで、
『TOC革命(制約条件の理論)--米国製造業復活の秘密兵器』
『TOCクリティカル・チェーン革命--画期的なプロジェクト期間短縮法』
『TOC--意思決定の技術』
『シンクロナス・マネジメント』
『TOCハンドブック』
『制約理論ハンドブック』
『TOC実践ガイドブック』
などなどです。

ザ・ゴールの売れ行きの状況からすると、これから急速に「スループット会計」なるものがもてはやされそうな予感がします。
スループット会計が幅を利かすのは、役に立たない全部原価・財務税務会計から脱するという意味では喜ばしいことではありますが、「四畳半」の分かりやすさとSTRACの数学性を持たないことが、残念に思います。
数あるTOC関係の中から、ラッセル社の『制約理論(TOC)についてのノート』だけでもいいですから、目を通していただき、西順一郎的TOCを早い時期に展開して欲しいと思います。

TOCも、スループットではなく、MQやMQ/Hと呼び、STRAC、STRAC2に本格的LPを味付けし、PERT、CPMも含んだ、科学的で誰にでも分かる新戦略手法(日本製の)を作ることにチャレンジしてください。

なお、ザ・ゴールと酷似した物語が、私の時代の佐賀三洋工業KKでした。すべて、西式のおかげです。
私がかかわった最後の申告所得の番付の記事を添付します。佐賀三洋工業KK最後の光彩だと思います。なぜなら、本社の経理部長だった人が、私の後任になって、コテコテの財務会計に体制を変えてしまったからです。
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● 以上、引用でした。

 

 

(KK西研究所・所長 西 順一郎)