日本に「TOC」(Theory Of Restraints、制約条件の理論)の紹介をしておられる方の一人に小林英三氏(1934年生まれ、67歳)がおられる。彼は、『ザ・ ゴール』が今年五月に出る前に、アメリカのいろいろな本やホームページ、情報源を利用してTOCを研究、『制約理論(TOC)についてのノート』(ラッセル社、2500円、2000年7月刊)を出した。その後も、数冊の本の翻訳をされ、それが彼のメールのサインの所に紹介されている。
先日、その三冊の本を全部注文したところ、『シンクロナス・マネジメント(同期的経営)』(同、4700円)という本が一番詳しく、今の自分にピッタリ来ることが分かった。
厚いので、まだ一部しか目を通していないが、実に微に入り細をうがったなかなか良い本である。この本を読むと、まさに自分が昭和40年代、企業時代に本社および現場でぶちあたり体験した、そしてある意味で解決したさまざまな場面が登場してくるので驚きである。

第一話

   私がある企業でトップの秘書をしていたころ、「○×会議」と称するものが毎月定期的に行なわれていた。
これは、企業の最トップが、発表・発売を間近に控えた製品を一覧して、「小型軽量高性能」をはじめ、とにかくわが社らしい製品かどうかを事前に点検するためのものである。
あるとき、たぶん音響製品の一つだったかと思うが、当時はどこの会社も一様に黒一色と直線ラインで設計していたので、副社長が、持ち前のマーケティングセンスから、「ここに一本白線でも入れたらどうか?」と提案した。その途端、設計者が顔色を変えて、「いいえ、駄目です、なにしろ、これで原価率ギリギリにしてあるので、この上は一円たりとも積み増せないんです!」
この言に、さしもの副社長も、それ以上踏み込むのをやめたという。同社でも、ご他分に漏れず、原価率・賃率・ライン稼働率などを意思決定の基準としている。同社だけではない。今回の『シンクロナス・マネジメント』を読んでみると、驚くべきことに、アメリカの殆どの会社が、今でも同じ基準でものを考えている。日本の会社がほとんど全部そうなのは、言を待たない。本当は、これは誤りである。真の科学はそうではなく、一見原価率は悪くなるように見えても、MQ最大化、Gmaxの方向で選択、意思決定すべきである。なぜなら、そのほうが、実行した後の損益計算書、すなわち事後の全体原価率も良くなるからである。(局部原価率と全体原価率は違うと、例の本にも書いてある。)
もちろん、そうはいっても、「効率」は必要であろうから、私は原価率という「配賦のかたまり」を否定しながら、それの代替尺度として、v率(材料費率)およびM/H(時間当たり付加価値)を用意していた。
したがって、商品企画や設計に当たっては、MQとM/Hの両軸による管理をすれば問題ない。私の戦略会計STRAC2では、この二つを両軸にとったスキャターグラフ(散布図)を「OPQR分析」という。(西著『戦略会計STRAC2』ソーテック社、1300円参照)

したがって、先程の製品評価会議のような場面では、副社長の提言が正しい。
白線を付加することでコストは数円上がる(Mは2~3円下がる)かもしれないが、秋葉原の黒一色の店頭において、わが社のその機種の白だけが浮き立って見え、一挙に目を引くので、数量Qは、直ちに2~3倍、ということは、MQ粗利総額も直ちに2~3倍多くとれるのである。
そのほうが確実にもうかることは間違いない。原価率を大事にするあまり、結局は他社と似たようなものしか出さず、「似たりよったり」ということで、大変な設計・製造・物流・販売努力をしたにもかかわらず、これもまた数千台で終わり、ということにもなりかねないのである。
かつてのワープロ、最近の携帯、ナビ、デジカメ、プリンター等のように、発売すると3か月で投げ売り状態というのでは、何とも無駄のような気がする。
なにしろ、基準は、分かりやすい、科学的ということが第一である。

第二話

  昭和47年ごろだったか、あるとき私は、トップに『mPQに進路をとれ』という分かりやすい、薄いレポートを提出した。
同社で数年間過ごしてみて、いかに皆が「原価率」で苦労しているか、その苦労の解決を図り、全員が正しいDC発想により、苦労を減らして、楽して儲けることを実現したかったからである。
ところが、そのレポートは、担当部長のところへ回り、後日「これは、数量が無限に売れるという前提に立った考え方である。」とかいう返答があったとかで、お蔵入りになったのである。 今日のシンクロナス・マネジメントは、まさに私が会社時代に感じた矛盾を突き、「正しいものの考え方、正しい行動のしかたはこう」とアメリカ側から明示してくれたものである。
アメリカでは、生産在庫管理学会(APICS)でも、企業や大学などでも、この動きが今ブームらしい。ということは、アメリカは科学のみちに歩み始めたということである。今のままの日本は心配だ。

結論

私が自分が今いる会社のために考え、研究開発した戦略会計STRAC2は、まさに『ザ・ゴール』以下、アメリカでここ15年間もてはやされ研究されてきたTOC、CMと同じである。いや、それより数歩進んでいる。 私は、STRACを開発するとき、アメリカのDCはもちろん第一に重要視したが、それを教条主義的に取り入れることはしなかった。
なぜなら、アメリカのDCは、直接材料費はいいとして、直接労務費、直接経費のような固定費まで「直接原価」に含めていたからである。
私は、中小企業診断士受験のプロセスで学んだ、材料費・外注費までが変動費V、他はすべて固定費に含めるという「変動費優先決定主義=変動費第一主義」を採用した。それが町なかの大方の経営者たちの発想とも同じだとも思ったからである。私が驚いたのは、アメリカ人もサスガだということである。私が知らないうちに、彼らは、直接労務費、直接経費も直接費(変動費)などという考えにその後疑問を抱き、今回のTOC(シンクロナス・マネジメント)に見るような、STRACそっくりの「材料費だけが原価」という正しい結論に到達し、それで世の中を変えようとしている。
アメリカ人は、昭和11年にDCを生み、最近またTOCによって、DCのSTRAC化近くにまで進んで来た。日本人も負けずに、私が昭和47年ごろ作ったSTRACを使い、STRAC2を使って、科学を重視し、楽して金儲けをしてもらいたいものだ。

 

 

(KK西研究所・所長 西 順一郎)