機内で

一昨日、博多MGへ行くJAL機内で、私は「マイコラム」の原稿を書いていた。隣にはたまたま明元素のご婦人(40歳代?)が座られて、清瀬の実家から久留米の自宅に帰るところだという。折から、窓の外に珍しく見事な富士山が五合目まで雪をかぶっていたので、「ホラ、富士山!」と言ったら、すごく喜んでいた。

「マイコラム」も半分まで筆が進んだところで、飛行機はいつの間にか下関を過ぎたらしく赤間・福間・宗像あたりの沖合にさしかかり、機内放送がある前に、早々とマシンをしまった。

目の前に、新しい機内誌がある。JAL/JASは経営統合したばかりなので、機内誌も「翼の王国」だか「ウイング」だかから「スカイワード」に模様替え。
手に取ってみると、今度はなかなか力のこもった内容だ。スイスのトレッキングとか、興味深い内容が盛りだくさん。めずらしく持って帰ろうかとぺらぺら中をめくっていくと、偶然55ページに小平桂子アネットの大きな写真があった。

あ、小平桂子アネットって、この人?

ハワイ島・マウナケア山頂(4200m)の日本の巨大望遠鏡「すばる」の建設までを書いた国立天文台台長・小平博士(65)の著書「宇宙の果てまで」を正月頃ようやく手に入れて、(同年なのに彼はよくやるよ)と思いながら読ませてもらった。霞ヶ関の各官庁と折衝する苦労話が長々と出てくる。その中にしばしば「小平桂子アネットの父です」と言うと話が早かったと書いてあった。あまりテレビを見ない私は、「ン?」と思うだけだったが。

あ、小平桂子アネットって、この人!?
で、その広告らしくない広告記事を読み始めたのだが、私の感覚にぴったり来るので、嬉しくなってしまった。なんと中身は、表計算花盛りの今日、珍しくも健全な「手作りデータベース」の話だったのである。(^^)v

本当のコンピューター利用とは?

小平桂子さんは、父が天文学者の小平博士。母親はドイツ人。小さいときからドイツやアメリカにも住んでいたということで、語学力を買われてNHKの衛星放送のニュースキャスターに起用された。(私はあまり見てなかったが)

現在、あるアメフトチームのプロデューサーをやったり、NHKの海外自動車レースの実況中継を担当したりしている。初めは紙のカードを繰りながら実況中継をやっていたが、ある時ファイルメーカーを教わったことから、一気にデータベースに行った。よくぞ表計算ソフトに行くことなく、データベースに行ったと思うが、それは彼女が最初から「カード」の利用者だったからである。

知的生産の技術

私も、昭和50年前後は、梅棹忠夫の「知的生産の技術」を読んで「京大カード」を買ってみたり、ホールソート・パンチカードシステム(外国文献社)などを試したりしていた(いずれも成功せず)。だから、1980年「PIPS」(後のマイツール)が来たときに、これだこれだと簡単に移行することができた。

PIPSもマイツールも、元はといえば、カード型のデータベースを「一行一データ」に再設計したものだと言ってよい。だから、「ソート・サーチ」が最初から運命づけられている。

表計算はこれとは全く違う。私も、昭和40年代にソニーにいたときに、自分用に「縦横集計」自動計算プログラムを作って活用していた。しかし、データベースのソフトを作ろうとまではもちろん考えなかった。

「縦横集計」は単純だから、素人でもすぐ作れる。しかし、データベースソフトは、そんなに簡単ではない。世の中のほとんどの人は、コンピューターには素人だから、表計算プログラムぐらいでも感激して使う。しかし、それには大きな限界がある。

マイツールの場合は、たとえば十数年前のフロッピーを探し出してきて、その中から一人の人間を今の住所管理や受講者名簿などに移して活用することが出来る。最近も、そういう実例があった。一方、表計算は、その場しのぎの使い捨て主義だから、後で引っぱり出して、ということは考えてない。この辺が、意識の高さの違いだと思う。

サイトを見る

ファイルメーカー社のその広告に、同社のURLが載っていたので、ホテルでアクセスしてみた。ファイルメーカーでデータベース管理をしているたくさんのユーザーの事例が載っている。なるほど、マイツールも、こういうことをすればよかったのだ。その中になんと、NHKとか、大塚商会、ゼロックス社などの大会社が多数載っている。

なるほど、NHKで使っているのであれば、誰かが桂子アネットに「ファイルメーカーを使うといいよ」とアドバイスしたことも十分考えられる。おまけに、可愛くて利発な彼女のことだ、なにかと親切に教えたがる男性仲間も多かったに違いない。

アップル系

そのサイトを調べていたら、同社はアップルコンピューターの子会社で、昔クラリス社というソフト部門だったのが、ファイルメーカーを買収して、その名も「ファイルメーカー社」と言う名前にしたらしい。ということは、メインはMacだということだ。もちろん、アメリカのことだから、ウインドウズでも支障はない。

我々は、幸運にも、最初からマイツールだった。ゆえに、ほかを見る必要はいっさいなかった。しかし、マイツールは主流になれなかったから、MTに出会えなかった人は、彼女のように「ファイルメーカー」のようなデータベースソフトに走ればよかったわけだ。ところが現実は表計算ソフトに走っている!

ともかく、小平桂子アネットのような利発聡明な女性が、マイツールではないにしても、それに似た「ファイルメーカー」の使い手で、手作りのデータベース生活を送り、楽しみながら大きな仕事をしているというのはたいへん素晴らしいことだと思う。

(KK西研究所・所長 西 順一郎)