ひょんなことから出会った本

 6/10に、初めて「地図力検定試験」というものを受けて、あと2点の差(1問の差)で、惜しくも「1級」を取り逃がした。2級の証明書が送られてきたが、惜敗ともなれば、今度こそ! という気になる。年2回なので、次回は10/21。

受験勉強は、やはり接触が大事と、日本地図センター発行の『地図中心』を年間購読予約する。それの六月号が、なんだか知らないが、剱岳(つるぎだけ)特集で、「剱岳測量100年記念」となっている。その2番目の記事が山岡光治氏の「剱岳登頂は、柴崎芳太郎に何を与えたか」という記事だ。

この山岡さんは、昔国土地理院の地図製作部で実際に技官をやった人だから、我々外部の者には、代替行動ということで、いろいろ参考になる。

その山岡氏の記事を読んでいると、盛んに新田次郎の『剱岳・点の記』(文春文庫、1981)というのが出てくる。(点の記とは、三角点設定時の公式な記録のこと)

新田次郎なら『八甲田山・死の彷徨』をはじめ何冊か読んでいるが、この本は知らなかったので、早速アマゾンのマーケットプレイスから取り寄せた。

読んでみると、これは強烈な本だ。八甲田山は勿論良いが、あれとは違う意味で、なるほど凄い男の挑戦物語だ。かつて、ウィンパーの「マッターホルン登頂記」を読んだが、剱岳も、それに似た強烈な本である。

ただしこの本を読むには、地図が必要だ。幸い、「地図中心」の21ページに剱岳周辺の25000が大きく載っていたので、これをさらに2倍に拡大して、それにマーキングしながら読んでいった。

立山そして剱岳

大町から入って富山に抜ける立山黒部アルペンルートは、以前から行ってみたいコースであるが、いまだ実現できていない。夏は田舎に帰るので、なかなか日程が取れない。まさか怖い剱岳に登ろうとは思わないが、楽なコースから眺めるぐらいはしてみたい。

小松空港の荷物受け取り場に某N精密工業のPR広告がある。見事なカラー写真で、立山室堂近辺らしい、特徴のある真っ平らな火砕流あとがそれこそ精密に写っている。室堂-天狗平-弥陀ヶ原と繋がっているらしい。いつも良いなぁと思いながら眺めている。珍しい地形のところには行ってみたい。

これまでは、そうやって漫然と見るだけだったが、この本によれば、明治40年(1907)、今からちょうど100年前に、陸地測量部(現在の国土地理院)の柴崎測量官が、当時前人未踏のため地図が空白になっている、そこに三角点を設置するために、ともかく登れと命令され、周辺の広い地域に4キロごとに26個もの三等三角点を設置して、最後に前人未到、かつ登ってはいけないと立山信仰の人々からタブー扱いされている山に、あえて科学のために登るのである。

しかし、さすが前人未到だけあって、東西南北、あらゆる方向から屏風岩に阻まれ、アクセスが出来ない。地元のプロである山案内人でも、アタックのルートがつかめない。そういう難山に挑戦し、命がけのチャレンジの結果、チームで成功する。しかし超難しい山のために、63キロの重い石を持って登る三等三角点は設置できず、長さ数メートルの木だけを持って行って、四等三角点設置に成功する。

現場を踏まないと

この本は、まさに血わき肉踊るで面白かった。しかし、私はラストの「取材日記」に感心して、ここだけ2回読んだ。この小説を書くために、新田次郎が、昭和51年9月初旬に10日間、64歳にして立山に数人で取材に訪れ、ついに地元の案内人に助けられながら、雨の中、問題の剱岳にも南側から登頂し、帰りに、今度は、立山温泉という今や廃墟の温泉あとにも取材に立ち寄る。

「剱岳初登頂の小説だから、何が何でも剱岳へ登頂しなければならなかった。」(367ページ)

このさりげない一行が素晴らしい。何も無理して難山に登らなくても、付近まで行って観察し、あとは実際に行った人の話などから「間接取材」しても(乙情報によっても)、あたかも「見てきたような」小説を書くことも出来るだろう。
しかし彼は、それをせずに、たとえ年でも、がんばって剱岳頂上(2999m)を踏んできた。ここが凄い。素晴らしい。作家の意地だ。信念だ。科学者の心だ。

たとえば、MGでも、工業版(基本版)は出来た。「商業版を作れ」と皆はいう。
しかし、真の商業版を作るには、この私がイトーヨーカドーやセブンイレブンに実際に5年間は勤めないと出来ない。憶測でものは作りたくないのだ。

今のMGは、私が三菱からソニーまで計15年勤めた体験の上に立つ、企業のビジネスシミュレーションなのだ。特に井深・盛田両トップの秘書体験がよかった。会計システムは、5年間の勉強の賜物だ。自分は経理畑の人間ではなく、門外漢だったし、かつ合理主義者だったから、STRAC、マトリックス会計が作れた。

今回初めてMGに参加した某M氏の感想文。

「単純化されたシミュレーションゲームだが、経営のエッセンスが凝縮され、大変よく出来ていると思う。いろいろな戦略を試せるので、繰り返しプレーしても、新たな発見があるだろう。ゲームの要素も盛り込まれ、経営層でも飽きることなく取り組めると、感心した。この内容なら、4万円払う価値はある。」

それにしても、新田次郎は、よくこれだけの小説が書けるものだなぁ。

(KK西研究所・所長 西 順一郎)